「DHAのサプリメントを子供に飲ませたら、効果があるのかな?」
DHA(ドコサヘキサエン酸)は『頭が良くなる』として有名な栄養素。
子供にはたくさんとらせたいと思っていても、正直自分の手料理だけで栄養が足りているのか、自信がありませんよね。
DHAサプリメントの広告では、よく「DHAが子供の読み書き能力を向上させる」として、2012年にオックスフォード大学研究者が発表した研究論文を根拠として紹介しています。
それを読むと、子供にDHAのサプリメントを飲ませたくなってしまいます。
でも実はこの研究、2018年に研究者自身によって「もう一回やってみたけれど、結果が再現できなかった」と報告されているのです。
そこでこの記事では、オックスフォード大学研究者の新しい研究データを紹介しながら、「DHAが子供に効果的」というのは本当なの? について解説します。
いちか 2児の母。
管理栄養士としてクリニックに勤務。その後大学院に進学して博士(医学)を取得。現在は子育ての傍ら栄養ライターとして活躍中。得意分野は悩めるママの栄養指導。科学的根拠がある栄養情報をお届けします。
DHAが子供の発達に効果的とした論文には続きがあった
まずは、「DHAは子供の読解力を向上させた」として、2012年に発表された研究について簡単に紹介します。
- 対象は、イギリスのオックスフォードシャー州の公立小学校に通う7-9歳の健康な児童のうち、読解力の成績が下から1/3の362人。
- 調査の目的は、DHAの投与が読解力・記憶力・行動に良い変化をもたらすかを検討すること。
- 藻由来のDHAカプセルを飲むグループ、トウモロコシ・大豆油のカプセルを飲むグループに分かれた。(誰がどちらのグループかは、わからないようになっていた)
- 16週間の服用後、もともと読解力の成績が下位20%の子供においてDHAカプセル摂取群で向上した。
- 親が評価する「反抗的な態度」にも効果があったが、教師が評価する「作業記憶」には変化はなかった
論文:Richardson AJ, Burton JR, Sewell RP, Spreckelsen TF, Montgomery P. Docosahexaenoic Acid for Reading, Cognition and Behavior in Children Aged 7–9 Years: A Randomized, Controlled Trial (The DOLAB Study). PLoS One. 2012;7.
つまり、もともと読解力の低い子供では、DHAをとることで成績が向上する可能性を示したのです。
ところが、同じ研究グループによって、2018年に再現研究の結果が公表されました。
そこでは残念ながら、「DHAが読解力の成績を向上させるという結果にはならなかった」のです。
図.DHA投与群と偽薬投与群で、読解力に差は見られなかった
論文より引用
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5819802/pdf/pone.0192909.pdf
最初の研究が嘘だったというわけではありません。心理学の研究は、再現が難しいと言われています。
人間の心を測定していますから、「調子がいい日」「気分が乗らない日」などその時の被験者のコンディションによって、結果に差が生まれるからです。
そのため、心理学研究では「再現できるか」確かめることが大切だと言われています。
つまりこれらの結果から言えることは、「DHAをとることで子供の成績が良くなるかはまだ言い切れない」ということですね。
DHAが子供の発達に役立つのは嘘だった?
それでは、DHAをとっても子供の発達には無意味か? というと、そうではありません。
「DHAをたくさん食べても成績アップにつながるかはわからない」ですが、もともと「DHAは脳の発達に必須の栄養素」です。
DHAが子供の発育に効果的だと言われるの理由には、次の2つがあります。
- DHAは脳などの神経型に多く含まれる
- 脳は生後まもなく〜幼児期に急激に発育する
それぞれ解説しますね。
DHAは脳などの神経型に多く含まれる
DHAは脂肪酸という、脂質を作る材料の一つです。そして、脂質は細胞膜の材料にもなります。DHAは特に、脳や目などの神経に多く存在しているのだそう。私たちが考えたり動いたりできるのは全て、脳からの命令によるものです。
DHAは、この脳からの情報伝達をスムーズにおこなうお手伝いをしています。ところが、DHAは私たちの体内では合成できないので、食事によってとらないといけません。
脳は生後まもなく〜幼児期に急激に発育する
もう一つ注目したいのは、発育の速度です。例えば私たちは、10代に「男らしい」「女らしい」体付きに急激に変化しますよね。
このように人間の体は、部位によって発育が盛んな時期が異なるのです。
DHAが多く存在する脳や脊髄などの神経型は、生後まもなく〜幼児期に発育のピークがあります。
具体的には、4歳まで大人の約80%、6歳までに約90%が完成すると言われています。つまりDHAは、幼児の脳の発育に欠かせない栄養素の一つであり、だからこそ「DHAが子供の発達に効果的な栄養素である」と言われるのですね。
DHAはどうやって食事からとれるの?
DHAを多く含む食品は魚です。特にサバなどのいわゆる青魚にDHAが多く含まれていますので、意識的に魚を取り入れてみましょう。缶詰でも大丈夫ですし、骨がない冷凍の切り身などはぜひ積極的に利用すると楽できますよ!
DHAを多く含む魚や、魚ごとのDHAの含有量についてはこちらの記事で紹介しています。
⇒魚を食べると頭が良くなるのは本当?なぜ?栄養成分DHAをご紹介
「サプリメントの方が手っ取り早い」と思われるかもしれませんが、厚生労働省によると、現時点で子供にDHAサプリメントを推奨する科学的根拠はないそうです。
サプリメントはあくまで食事の補助であり、当然ながらサプリメントではお腹は満たされません。
サプリメントでDHAをとっても、食事の栄養バランスが偏っていたらやはり健康は良くないですよね。まずは食事を意識してみることをおすすめします。
⇒野菜ジュースは野菜の代わりになる?子供への効果的な飲ませ方を紹介
DHAは子供の発達に役立つ?まとめ
『DHAが子供の発達に効果的』として引用される論文の詳細や続報についてお伝えしました。もう一度ポイントをまとめますね。
- 「DHAが子供の読解力を向上させる」という結果が出た研究結果は、その後研究者自身によって「再現できなかった」と発表された。
- 現時点では、DHAが子供の発達を「より向上させる」という科学的根拠はない。
- DHAは脳や神経の発達に必要な栄養素であり、とらないといけない。
- 厚生労働省からサプリメントの推奨はされておらず、できるだけ魚を食べることが大切。
子供の頭が良くなるよう、できることはしてあげたいと思いますよね。
DHAをたくさん食べたら成績がアップするかはまだ不明ですが、脳の発達にDHAが必要なことは間違いありません。魚を食べる機会を今より少し増やしてみてはいかがでしょうか。