「ゲノム編集食品とは何?安全性は大丈夫?」
「遺伝子組み換え食品とは違うの?危険じゃないの?」
バイオテクノロジーの発展により、またひとつ聞き慣れない食品が登場しました。その名も「ゲノム編集食品」。
2019年10月に厚生労働省は、ゲノム編集食品の届出受付を始めました。その後、初めて厚生労働省と農林水産省に販売・流通の届出があったのは2020年12月。
筑波大学発のベンチャー企業がゲノム編集技術を使い、特定のアミノ酸を高濃度に含むトマトを開発したのです。
アミノ酸が豊富なんてすごい!と思う反面、いざ食べるとなるとちょっと心配なのも事実。特に子供には与えても大丈夫?と不安になりますよね。
そこでこの記事では次のことを解説します。
- ゲノム編集食品とは?遺伝子組み換え食品とは何が違うの?
- 安全性は大丈夫?危険性はあるの?
新しいバイオテクノロジーを使った食品で食卓が彩られる未来は、すぐそこまできていますよ!
いちか 2児の母。
管理栄養士としてクリニックに勤務。その後大学院に進学して博士(医学)を取得。現在は子育ての傍ら栄養ライターとして活躍中。得意分野は悩めるママの栄養指導。科学的根拠がある栄養情報をお届けします。
ゲノム編集食品とはなに?遺伝子組み換え食品との違い
まず読者さまに安心してほしいのは、『ゲノム編集食品とは、目新しい食品ができるわけではない』ということです。その上で、ゲノム編集食品について、順を追って説明しますね。
ゲノムとはなに?
私たちの細胞の中には、DNA(ディーエヌエー;デオキシリボ核酸)と呼ばれる物質があります。DNAのすべての情報のことを「ゲノム」と言います。
そして「爪の形が親子でそっくり」など、生物学的な特徴が親子で受け継がれているDNAの特定の部分を「遺伝子」と呼ぶのです。
ゲノム編集食品は品種改良の延長線上にある
『異なる品種をかけあわせ遺伝情報を望ましいものに変える』『放射線や化学物質により突然変異を促す』品種改良は、昔からごく普通に行われている技術です。
たとえば、私たち大人が子供の頃に食べていたにんじんは、もっと青臭くて苦かったと思いませんか?
今のにんじんは甘く食べやすく、好きな野菜ランキングの常連です。これが品種改良の成果です。品種改良のおかげで、多くの野菜や果物は昔よりもずっと食べやすくなりましたね。
ただし、品種のかけあわせは、いつ目的とする遺伝子に変化するかわかりません。突然変異を促すにも、ランダムに遺伝子に傷をつけることしかできません。
よって、品種改良には、長いと数十年の歳月がかかっていました。
そこで、変化させたい遺伝子に直接働きかけをして、突然変異の頻度を増やそうという品種改良が、ゲノム編集食品です。今までの品種改良を、より効率的に行う技術ということですね。
ゲノム編集食品はどうやって作るの?
ゲノム編集食品をつくる仕組みはいたってシンプルです。
- 変化させたい遺伝子を切る
- 遺伝子は傷がつくと自然と修復するが、その際にエラー(突然変異)が起こることがある
- この突然変異が、期待する働き(たとえば病気に強いなど)になるまで1を繰り返す
実際に手を加えるのは、①の「遺伝子を切る」という部分だけです。実は、遺伝子が切れること自体は、自然界においてはごく普通に起こる現象なのです。
さらには、従来の品種改良でも、放射線などでランダムに遺伝子を切断することは行われていました。
ゲノム編集は『特定の遺伝子を狙って』切る、という点に、自然界や従来の品種改良との違いがあります。
性質を変化させたい遺伝子を狙い撃ちできるので、数年で結果が出ることが期待できるのです。
厚生労働省の資料によると、トマトの他には次のような食品の開発が国内外で進められているそうです。
- 毒素のないジャガイモ
- 筋肉量を増やした鯛(タイ)
- 変色しにくいマッシュルーム
- オレイン酸を多く含む大豆 など
参考:厚生労働省医薬・生活衛生局食品基準審査課.新しいバイオテクノロジーで作られた食品について
遺伝子組み換え食品とは違うの?
ゲノム編集食品と遺伝子組み換え食品は次のように特徴が異なります。
- ゲノム編集食品は、遺伝子を切ったあとの修復を利用して性質を変える
- 遺伝子組み換え食品は、遺伝子を切ったあとに他の生物の遺伝子を加える
遺伝子組み換え食品は、他の生物の遺伝子をゲノムに組み込むことで作られます。
たとえば、害虫に強い遺伝子をじゃがいもに組み込んだものや、特定の除草剤で枯れない遺伝子を組み込んだとうもろこしなどがあります。
もともとの作物が持っていない遺伝子を組み込むため、特に安全性の確認が大切です。
一方でゲノム編集食品は、あくまで自分のもつ遺伝子の範囲内での変化であり、遺伝子組み換え食品とは根本的に違うんですね。
⇒オーガニックは子供の身長や骨に悪影響?ベジタリアンについて最新論文から解説
ゲノム編集食品の安全性は?危険じゃないの?
遺伝子組み換え食品の場合、流通が始まる前に、厚生労働省に委託された食品安全委員会によって安全性評価を行います。
特に組み込む遺伝子について『ヒトに食べられた経験があるか』『組みこまれた食品の中での働きがよく解明されているか』『アレルギーや有害物質は大丈夫か』『大きく栄養価が変わらないか』などの観点から細かくチェックされるのです。
一方で、ゲノム編集食品に使うのは、あくまで自分の遺伝子のみ。
遺伝子が切れるのは自然にも起こるし従来の品種改良でも行われてきたので、ゲノム編集による切断でも安全性は変わらないとされています。
よって、ゲノム編集食品には遺伝子組み換え食品のような安全性評価は行われません。
現時点では「安全性・危険性はもともとの食品が持つものと同じ程度」だと考えられているということですね。
そうは言っても、まだ一般にはなじみのない新しい食品には不安がありますよね。
そのためゲノム編集食品を作った業者は、厚生労働省へ届け出るとともに、安全性に関する情報公開の手続きをしてから流通をスタートします。
今後ゲノム編集食品の安全性評価を、遺伝子組み換え食品と同様にするかはまだわかっていません。
各国それぞれが議論しているところなので、今後動向は変わるかもしれませんね。
⇒培養肉を子供が食べても大丈夫?危険性はない?安全性を調べてみた。
卵アレルギーの子供でも食べられる卵が遺伝子操作で誕生!
卵アレルギーのわが子を持つママに朗報!
【研究成果】鶏卵の主要なアレルギー原因物質(アレルゲン)をゲノム編集(Platinum TALEN)により除去し、その安全性を確認
【研究成果のポイント】
- Platinum(プラチナ) TALEN(ターレン)(pTALEN)(※1)を用いたゲノム編集(※2)により、鶏卵の主要なアレルゲン(※3)であるオボムコイド(OVM)の遺伝子をニワトリでノックアウト(※4)しました。
- ゲノム編集したニワトリが産生する鶏卵中のOVMおよびゲノム編集により生産されることが予想された副産物は、生産されないことを証明しました。
- ゲノム編集食品で懸念されるニワトリへの別の遺伝子の挿入や他の遺伝子へ影響は、全くありませんでした。
- 今後は、ゲノム編集による鶏卵成分に対する影響や試作品(加工食品)にした場合の評価(物性や官能)や安全性を実施していく予定です。
広島大学
https://www.hiroshima-u.ac.jp/news/76416
ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0278691523001059?via%3Dihub
ゲノム編集食品とは?遺伝子組み換え食品とは違うの?まとめ
新しい品種改良の技術として期待されるゲノム編集食品について解説しました。
もう一度まとめますね。
- ゲノム編集食品は、狙った遺伝子配列を切断することで、品種改良を効率化したものである
- 突然変異させる遺伝子をピンポイントで狙うので、開発にかかる期間が短くなる
- 遺伝子組み換え食品のように、他の生物の遺伝子が入るわけではない
- 遺伝子の切断は自然にも起こりうることなので安全性は問題がないとされ、安全性評価も義務付けられていない
『ゲノム編集』という言葉からは、一瞬おそろしい印象さえ受けますが、実は品種改良の効率化に期待が寄せられている技術です。
品種改良の目的は味を良くすることだけではありません。
砂漠化に対応するために乾燥に強い作物や、人口増加に対応するために害虫に強くたくさん収穫できる作物などが求められています。
これらを解決する手段になりうるのがゲノム編集食品です。
まだ新しい技術なので、今後どのような枠組みが作られ、どのように私たちの食卓へ届くようになるか、楽しみですね。
【参考】
*厚生労働省医薬・生活衛生局食品基準審査課.新しいバイオテクノロジーで作られた食品について
*日本生活協同組合連合会 組合員活動部&安全政策推進室.「ゲノム編集食品」ってなに?
*農林水産技術会議.あなたの疑問に答えます(ゲノム編集の特徴は?遺伝子組み換えとどう違うの?)